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  「絶賛・絵本=土蔵ができるまで」

                       松崎蔵つくりたい広報部 松 本 晴 雄

 24日午後7時より国民文化祭「左官文化を語る会〜自然素材とともに暮らしたことをま
なぶ〜」というシンポジウムが、松崎町文化ホールで開かれた。パネラーは業界のカリス
マ、小林澄夫・藤田洋三・原田進・挟土秀平・久住有生・関賢助諸氏である。

 この日は予報がはずれて午前より雨模様となった。午前、私は街角に並べられた「花あ
しらい」の取材に町へ自転車を走らせた。しかし、本格的雨となり、シンポジウムへ行く
かをやめようか、息子に頼もうかと躊躇していた。すると電話が鳴った。友人からで「一
緒に行かないか」との誘いであった。

 そして便乗して会場へ足を運んだ。相当時間が早かったのでまだ数人しかいなかった。
後ろの壁面には「藤田洋三なまこ壁写真展」があった。そこに名田さんがおられた。最近、
松崎へこられる頻度が激減していたので健康を害されたのか心配していたのだが、幸せそ
うな顔であった。一緒に写真を見て、会話をかわした。

 いよいよシンポジウムが始まる。私は各自の主張が強すぎるこの種のものは余り好まな
い。しかし、職人という職種の人たちの話は内容が濃く、時間がかえって経たないのが不
思議である。

 そして藤田田洋三氏が絵本を示し、絶賛してくれた。地元高校美術部が作成した「土蔵
ができるまで」である。現場でのスケッチは勿論、土練り、鍛冶屋で赤い鉄まで打った。
生徒達が丁寧に描いた絵が素晴らしい。また、どうして私が指名されたのかわからないま
まの拙文が掲載されているのだ。

 私は嬉しくてならなかった。拙文があるからではない。高校生が体験しての絵だからこ
そ認められる結果だからである。それに少し色を添えたであろう、一文を掲載することに
する。

   「松 崎 夢 の 蔵」  

 松崎町は、名勝“伊豆西南海岸”に位置し、富士山や夕陽、幾つもの入江、山河、温泉、
歴史的風土に恵まれたところです。
 そこにひときわ目立つ建物が、漆喰芸術の殿堂“伊豆の長八美術館”で、左官の名工・
入江長八の作品が燦然と輝いています。設計石山修武氏、これにより吉田五十八賞を受け
ました。建築工事竹中工務店、左官工事は日本左官業組合連合会がバックアップし、全国
の名工を総動員した現代左官技術の“粋”を集めたもので、昭和59年に完成しました。
 町を歩けば“なまこ壁”の建造物があり、多くの観光客が散策しています。しかし築百
年以上のものが大半で、保全が難しくなってきています。
 “なまこ壁の存在しない町”、想像したくないことです。勤勉であった“ムラ人”の魂
が塗りこめられた、白と黒の幾何学模様です。それが無くなることは、町のアイデンティ
ティを失うにひとしいことです。
 わが家は土蔵づくりではありませんが、昭和30年代に建てられました。私有の山林を
伐採、肩やソリで出して製材、建前、荒壁の土練り、木舞かき、屋根葺き……、女衆は台
所仕事……、親戚は半月以上も奉仕作業をしてくれました。また、ムラ社会は職人集団で、
素人でもある程度仕事の補助ができました。木挽き、石屋、屋根屋、土建屋、鋸屋、建具
屋、畳屋、篭屋、桶屋、下駄屋、傘屋などが点在し、鍛冶屋は作業目的、身の丈に合った
道具を作ってくれました。貧しくはありましたが、三世代の一家団らんがあり、生活全般、
農作業など、みんなで助け合う、豊かな心がありました。
 それを“良き時代”と捉えようにも、はるか遠く、逆戻りは不可能です。こんな時、結
成されたのが“松崎蔵つくりたい”です。左官の現職・OBの指導のもと、なまこ壁を愛
する軍団です。光る泥団子、伊豆文邸修復などで始動し、このたびは“松崎夢の蔵”の建
設です。
 高さ4メートル、間口3.4メートル、奥行き2.6メートルの小さな建物ですが、未
来を切りひらく蔵なのです。“左官の町・松崎”ですら、70年もの空白域の建設です。
“土扉”など古文書をひもときながら試行錯誤の挑戦です。
 まさに“土蔵は一日にしてならず”建材屋から資材提供、大工、鍛冶屋など多種の職人
連鎖で造られます。県の“森の力再生事業”による間伐材利用から製材職人も参加です。
言うなら“職人共和国”のネットワーク、フル活用です。
 これを平成21年度開催の“第24回国民文化祭しずおか2009”に協賛し、そのノ
ウハウを全国発信します。地元・松崎高等学校美術部は、絵本“土蔵ができるまで”を制
作しました。現場でのスケッチはもちろん、土と格闘し、赤く燃える鉄を打つ作業もしま
した。多くの大人たちと接することで一段とたくましくなりました。“なまこ壁”の深層にひそ
むの……、蔵に対する先人の思い入れ、豊かさを形にした産業、とくに水産、木炭、
“早繭相場”の町。神事から竣工までの心と仕事の流れが、しっかりと表現されているは
ずです。
 “文化”とは、学び、理解し、継承、循環されてこそ成り立つものです。過去と未来を
つなぐ“夢の蔵”なのです


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