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 「大  鋸(おが)」

                          松崎夢の蔵事務局 細 田 栄 作

 小さな国語辞典では「大鋸」(おが)という語は出てきません。もう死語になった言葉な
のです。なんとなく手に入れた「大鋸」がなくなりました。たぶん私の潜在意識が、大切
なものと解釈していなかったからだろうと思います。

 それが昨年来、いや、足掛け3年、土蔵を作るにあたり大工棟梁を誰にしようかと迷い
ました。案外、左官職の割に大工をする人が多いためです。ましてボランティアを伴う作
業であればなおさらです。思案の末、後藤大工にしました。

 後藤棟梁の兄弟子の鈴木大工は、この企画に深く共鳴し、昔ながらの木組みを使用する
建て方に固執してくれました。

 アンテナをはる私は、すぐさま気づき取材を始めます。自分の経験体験の無い作業は、
何時も新鮮で驚きの連続です。古来の日本建築には知恵がふんだんに使ってあるからです。
近代化の名の下に捨て去られた大切なものが隠されていたのです。

 そして木について、建築について、蔵を造るにあたって左官の事しか考えなかったこと
に衝撃を受けました。それより奈良時代の建築や、多くの木の心を改めて考え直すきっか
けとなったのです。その延長線上に浮かんだのが「木を切ること」でした。そこで「大鋸」
の偉大性を知ったのです。そうなんです。この松崎の、この伊豆の、この日本の木を「製
材」することの歴史が山ほどあるのです。それは木の特質を知って大切に挽くということ
でもあります。

 すると忘れかけて外にホウッテあった大鋸が思いだされたのです。探すともうそこには
ありません。何度も何度も探しました。きっと盗まれたのだと、最後に悟りました。そう
すると欲しくて欲しくてたまらなくなるのが人情です。

 親戚に木挽きを先祖にしているものがないでもないのですが、自分が大切なものと知る
と「もらいたい」などとは口に出せません。

 何か他の手はないものかと考えていたところ、グットタイミング、知人の骨董屋さんに
立ち寄ると、目の前にあるではありませんか。もう、すぐさま手に入れました。何か胸に
大きな穴が開いた時のご褒美のようです。

 手に入れた大鋸がどんな歴史を背負って私の手元にあるのか知れません。この長い幅広
い鋸を使うには「1升の弁当」を持参したと聞きます。堅い欅を挽いて船材にも使ったと
いうことです。柄には杉材が使われています。これは手に馴染みやすいからです。欅など
堅い材料ではマメなどが出来て一日仕事は出来ないと言います。

 私もこの鋸を握ってみます。少し昔、男達が生き甲斐を充満させながら仕事をする姿が
彷彿とさせられるのです。 早速手作りの額縁を作って宝物としました。

                                        

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