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「建前の祝詞と木遣り」
松崎夢の蔵・大工棟梁 後 藤 育 正
「松崎夢の蔵」の建前（上棟式）は、９月２３日に行われた。大工にとっては最高に誉
れある日といえる。連日、木材を設計図に合わせて刻み、それが組み合わさって家の形が
整えられるのである。無形から有形へ、わが子が生まれて成人していく姿に似ている。
今日ではクレーンなどの重機があり、比較的簡単に柱を立てることができるが、昔は何
本かのロープを上部に結んで大勢が力を合わせて立てたものである。特に多くの人がかか
わるので、怪我があってはならないと棟梁として神経を休めることが出来ない。工程のつ
ど確認を怠らないが、寸法違いがあるのではないかと不安がよぎったりもする。
なおこの間、大工として普通の木材加工なのに、マスコミ関係者の取材を多く受けたの
には驚いた。作業が満足に出来ないほどであった。日本の大工は「ホゾ・ホゾ穴」で、出
来るだけ釘を使わない木組みが当たり前である。それが珍しいと感じられることは、現在
の建て売り住宅が効率化（手抜き）を目標としていることでもある。２０年も経てば建て
替えを余儀なくされるような方式なのだ。
たぶん近々古来工法の良さが見直されるだろう。地元材を使い、地元の職人が地域の風
土・精神に適合した家を建築する意義をである。もし、災害が起きた場合、地元に職人が
いなかったらと、考えてもいただきたい。
この日は晴天で、すくっと青空に向かって立つ様を見る時、ぐっと迫ってくるものがあ
る。青竹を弓にして、糸をきりりと絞って矢をつける。矢の方角は北である。供え物をあ
げ、いくつかの手順を踏んで祝詞を読み上げる手順となる。これは屋根上などで行われる
ためか、大工棟梁の役目となる。今回は餅まきなど行わないので、階下で行われた。（餅
まきは９月２８日＝長八祭り）。どんな内容の祝詞かと問う人が多いため、私が当日読み
上げたものをご披露したいと思う。
上棟式祝詞
掛（カ）けまくもあやに畏（カシコ）き手置帆負命（タオキホオイノミコト）、彦佐知命
（ヒコサシリノミコト）、屋船豊受比賣命（ヤフネトヨウケヒメノミコト）の大神等（オ
オカミタチ）の御前（オンマエ）に畏（カシコ）みも白（モウ）さく。先（サキ）に木工
（こだくみ）「後藤育正（大工氏名）」が、「松崎町長深沢進（建て主氏名）」の家を造（ツ
ク）り初（ハジ）むるに加久多安（カクタヤス）からぬ事をば我（ワ）が須女神（スメガ
ミ）の御霊（ミタマ）賜（タマ）いて突立（ツキタ）てたる柱（ハシラ）、取挙（トリア）
げたる棟木（ムナギ）、桁（ケタ）、梁（ハリ）の木組（キカイ）とよみなる事（コト）
なく、打堅（ウチカタ）めたる釘（クギ）の緩（ユル）び「この時、玄能にて三度打ち鳴
らす）」取葺（トリフケ）る束（ツカ）のそぎなく千代常（チヨトコ）に造（ツク）り終
（オヘ）しめ給（タマ）えるに嬉（ウレシ）び今日の生（イ）く日の足（タ）る日に彌（イ
ヤ）喜（ヨロ）びの主人（アルジ）と御酒（ミキ）御饌（ミケ）設（マケ）たらはして今
も後（ノチ）も此の家を安宮（ヤスミヤ）と大神（オオカミ）等（タチ）の護（マモ）り
給（タマ）いて法則（ノリ）のまにまに平（タイ）らけく安（ヤス）らけく成（ナ）しお
へしめ給へと畏（カシコ）み畏（カシコ）み申（もまう）す。
平成二十年九月二十三日 大工棟梁 後 藤 育 正 謹白
また、「木遣り」についてですが、この辺は三島木遣りの系統を持つらしく、テコ木遣
りと棒車木遣りを歌うのを聞いたことがあります。その建築した家の家門長久を祈って心
清らかに唄うもので、施主様に対する何よりのお祝いだったのです。最近は正式に唄える
人がほとんどなくなったことは残念なことである。
テコ木遣り
エーヤレヨー ヤレテーコーセー エーホーヤーレー
えーめでたーめでたのー
コーレワーセー エーホーヤーレー
若松さまよー
コーレワーセー エーホーヤーレー
枝も栄えてー
コーレワーセー エーホーヤーレー
ヤレ葉もしげれよー
コーレワーセー エーホーヤーレー
棒車木遣り
エーンヤラーヤレコイサセー
コレワーセーエーヤーレー
今朝も出がけによー
エーンヤラーヤレコイサセー
コレワーセーエーヤーレー
せんすをひろいました
エーンヤラーヤレコイサセー
コレワーセーエーヤーレー
せんす目出度のー
エーンヤラーヤレコイサセー
コレワーセーエーヤーレー
末ひらきますー
エーンヤラーヤレコイサセー
コレワーセーエーヤーレー
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職人共和国
