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  「左官棟梁として」

                    松崎蔵つくりたい・左官棟梁 高 橋 恒 彦

 本来、土蔵造りの棟梁は左官が務めるということを何かで読んだことがあります。し
かし今回の「松崎夢の蔵」では、間伐材をいただき製材することから始まりますので、
大工棟梁と左官棟梁の「二人棟梁制」としました。

 近年、左官による「塗り壁」が見直しつつあることは喜ばしいことです。建築の近代
化により化学糊、ビニールクロス張りが主流となっていましたが、再び評価が高まって
きたのです。これは人が親しみを覚える土・藁、竹・木などの自然素材の良さが心身に
フィットするからだと思われます。

 古来より日本の風土が育んだ「塗り壁」です。その活用により安全で快適な暮らしが
得られるのですから、当然の帰結といっても過言ではありません。例え安価であっても
ハウスシック症候群にかかったら元も子もありません。

 その需要の灯りがほのかに射しはじめた今、周囲を見回すと左官職人が壊滅しそうに
なっていることに唖然とします。この私が40歳代で最年少、工務店に所属する者は稀
少で、細々と内職程度の仕事をしているのです。こんな田舎でも「建て売り住宅」に侵
略され、大工・左官職人は瀕死状態なのです。天気が左右し、肉体労働、賃金の保証の
ない世界です。若者が都会へ流出してしまうのも無理ないことです。

 こんなとき降って湧いたのが「松崎夢の蔵」の建設です。しかもボランティアです。
妻子を養う現職であれば、簡単に返事はできません。

 しかしどうしようもない、どこからとなく沸々とするものがあります。我が家の何代
か前、幕末から明治にかけて入江長八の直弟子の弟子をした先祖がいるのです。父も左
官職人でした。酒を飲むと口癖のように「俺はなまこ壁の蔵を造ったことがある」と自
慢するのです。職人は親を超える気概がなければ務まるものではありません。それに関
代表、中村先輩がいてくれます。

 技術を学び、引き継ぐつもりで引き受けたのですが、まったく未知な世界ですので試
行錯誤、手探り作業です。でも、その一つ一つを解明して納得、苦労の倍も楽しさを味
わうことが出来ます。特に細田さん提案の「土扉」の挑戦は、奥深く面白いものがあり
ます。

 お陰様で、今まで「体験がないから」と拒否しつづけた「なまこ壁の修復」も二つ返
事で引き受けられるようになりました。先日も地震で崩れた長八作品と隣接する「山光
荘」の壁を、中村先輩と修復したばかりです。この体験はなまこ壁の家並みを観光資源
としている町のお役に立てる自信ともなりそうです。

 それには仲間が必要です。ボランティアの蔵つくり隊はもちろんのこと、職業として
の「左官」の養成をしなければと思います。特に御前崎から来てくださる、松本左官の
親子、お子さんは小学5年生ですが鏝を持つ姿に頼もしさを覚えます。また、「職人共
和国」ともいわれる職業連鎖の集団がなければ建物が出来上がらない事実です。建材屋、
造園屋、生コン、鍛冶屋、建具屋などのお世話になりました。

 今回は「国民文化祭」へも参加しています。全国発信をするならば注目の的となるこ
とでしょう。地元の松崎高校生も熱心に作業に参加、スケッチをしました。「土蔵がで
きるまで」という絵本を作るのだそです。彼ら若者と話し合うことができました。左官
職人をどう表現してくれるか、楽しみです。

 わが「松崎夢の蔵」は、町の閉塞感を打破する特効薬が詰まる、宝の蔵になるかも知
れません。
                                        

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