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  「建築材の用意 」

                              松崎蔵つくり隊広報部 松 本 晴 雄

 詩人・石垣りん(1920-2004・大正9年-平成16年) は、父の生まれ在所である「南伊豆
町」に本籍を置いたまま生涯を終えた。東京に生まれ、住まわれながらである。その彼女
の母2人は松崎町生まれた方である。だから、松崎町の地名を入れた作品も多い。私ごと
だが、伊豆まつざき荘に泊まられた折、知人の紹介で親しくお話したものである。純朴の
人柄、鈴を転がすような美声のお方であった。

 私たちはミニコミ誌を発行いたが、彼女にお願いして「地方」という作品を紙面にする
許可をいただいた。読んでいただければお分かりだが、先祖が植えたものがようやく自分
の代で役立つという、山林のスパンの長さに感動、私も次世代のため山林管理に傾注した
ものである。今冬、国の補助金を得て、その山林の間伐が行われる。だが一般には、お金
にならないと知ると、山林を見向きもされなくなった。

 以前のムラ社会は、木こり、製材、炭焼き、道具出し、鋸屋、山畑、竹きり、カゴ屋な
どほとんどの家が山に関係ある仕事をした。地主は幾区画に分けて立ち木を売って財をな
した。もし、あの時のように皆が山に関心をしめしたら、地方の疲弊は考えられぬことで
あったろう。伊豆の各市町は、ほとんどが80%以上が「山林」だからである。

 ここで石垣りんさんの「地方」という詩を紹介しよう。

   地   方    石垣りん

 私のふるさとは
 地方、という所にあった。
 私の暮らしは
 首都の片隅にある。
 ふるさとの人は山に木を植えた。
 木は四十年も五十年もかかって
 やっと用材になった。
 成人してから自分で植えたのでは
 一生に間に合わない
 そういうものを植えて置いた。
 いつも次の時代のために
 短い命の申し送りのように。
 もし現在の私のちからの中に
 すこしでも周囲の役にたつものがあるとすれば
 それは私の植えた苗ではない。
 ちいさな杉林
 ちいさな檜林。
 地方には
 自然と共に成り立つ生業があったけれど
 首都には売り買いの市場があるばかり。

 「松崎夢の蔵」は、小さい建物ながら柱や抜き材がいる。そこで森林組合からの情報で、
平成18年度から「森林(もの)づくり県民税」が導入され、「森の力再生事業」による
間伐が行われていることを知った。蛇石峠付近には岩科財産区所有山林の間伐材が利用す
る計画もなく放置されていたのだ。やはり木材も地産のものを使うほうが、はるかに建物
が長持ちすると聞く。

 そこでお願いし、その間伐材をいただくことにする。職人は一見してこれが柱材、板材
にと建物の設計図を頭に描き、必要なだけを計算する。杉材40本、西伊豆町大沢里の梅
田製材へ運び入れる。さすが製材職人、根本と幹先の芯を読み取り角材にしていく。その
木目の美しさ、愛おしく撫でたくなるほどである。以前は丸鋸が使用され、あの回転に恐
怖心を感じたものである。今は帯鋸で、危険を予防する装置もついている。

 申し遅れたが、設計者は松崎町内にお住まいの1級建築士・工藤省三氏である。お忙し
いにもかかわらず「松崎夢の蔵」のため、設計図とジオラマ作成をしていただいた。「職
人共和国」の幕開けである。氏は、「古い蔵を見学、設計するまでの過程を楽しめた」と
申しておられた。

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